ニューズレター


2025.Jan vol.122

賃貸借における敷地の利用権


不動産業界:2025.Jan vol.122掲載

私は、10年程前から、ある建物を賃借して、店舗を営んでおります。敷地内(店の入り口付近)には立て看板や商品陳列のためのワゴンを置いていました。これについて、これまでオーナーから何か言われたことはありませんでした。しかし、数か月前から、賃貸人であるオーナーが、店舗の前の敷地スペースに物を置くようになりました。これにより立て看板やワゴンを置くことができなくなっています。オーナーは、自分の土地なのだから文句を言うなと取り合ってくれません。泣き寝入りするしかないのでしょうか。


建物を店舗として賃借している場合、敷地内に立て看板や商品陳列用のワゴンを置くことは、賃貸目的達成のために必要な敷地利用であるとして、賃借人の敷地利用権が認められる可能性があります。そのため、まずはオーナーを説得するべきかと思いますが、オーナーが応じてくれない場合には、敷地利用権の行使を妨害されているものとして、賃借権に基づく妨害排除を請求することが考えられます。

さらに詳しく

1.賃貸建物の敷地の利用権について

建物賃貸借契約において、賃借人は建物の敷地の利用権を有するのでしょうか。この点、建物の賃貸借契約においては、当然その目的物は建物となります。しかしながら、建物の使用のためには敷地部分を通行せざるを得ません。また、具体的な契約内容によっては、賃借人が、建物の周囲を一定の範囲で使用することが賃貸借契約上当然に想定されている場合もあるでしょう。そうすると、建物賃貸借契約における賃借人は、一定の範囲で、建物の敷地を利用する権限を有しているものと考えられます。

裁判所も「建物の賃貸借契約は、当該建物の使用・収益にとどまるものではなく、建物の使用・収益に伴い、周囲の土地を合理的な範囲で使用することは、当然に建物の賃貸借契約に含まれる」(東京地判平成19年1月26日)、「一般に、建物賃借人は、敷地を利用することなく建物を使用収益することは不可能であるから、建物賃貸借契約の性質上、当然に、建物の敷地についても使用収益権……を有」する(東京地判平成24年8月20日)、「建物賃借人の敷地利用権は、その建物の賃借目的を達成するために必要であることが合理的に認められる限度で付随的に存する」(東京地判平成4年4月21日)などと判示し、建物の賃貸借契約における賃借人の敷地利用権を肯定しています。

2.本件について

本件では、相談者は、10年程前から店舗用に建物を賃借しており、建物の敷地のうち、店の入り口付近に立て看板や商品陳列用のワゴンを置いていたとのことです。そして、オーナーはこれに異議を述べることはなかったとのことです。

本件の賃貸借契約が店舗用のものであることからすれば、店頭のスペースに立て看板や商品陳列用のワゴンを設置することは賃貸借契約において想定されていたと評価される可能性があります。また、オーナーがこれに異議を述べたことがないことからすると、仮に当然想定されるものとは言えない場合でも、オーナーは、賃借人が店頭に立て看板や商品陳列用のワゴンを設置することを事実上許容していたものと考えられます。

そうすると、本件において、建物の賃借人は、建物の敷地のうち、店の入り口付近のスペースを立て看板や商品陳列用のワゴンを設置することで利用する権限を有しているものと判断される可能性があります。

裁判例でも、カメラ店としてビルの一階を賃借し、店頭にアルバムや写真材料等を乗せたワゴンを設置していた事案について、「本件ビルの一階である本件店舗の構造、外観、本件土地の本件店舗との位置関係、本件店舗の業種がカメラ店であること、原告の本件土地の使用態様……などからみて、原告は、本件店舗においてカメラ店を営業するうえで、本件土地を」店頭にワゴンを設置する等の方法「の限度において使用することが必要であり、被告も数年間はこれを事実上許容していたものとみることができ、結局、原告は、本件土地を賃貸借の目的物である本件店舗に付随して占有使用する権利を有しているものと解するのが相当である。」(東京地判昭和61年6月26日)と判示しています。

土地の利用権の有無やその範囲については、具体的な事案によって異なります。そのため、建物賃貸借における敷地のトラブルがあった場合には、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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