ニューズレター


2024.Apr vol.113

入居者が長期間不在・音信不通となった場合の対処


不動産業界:2024.Apr vol.113掲載

私の管理するマンションの1室の入居者について、1年ほど前から家賃が滞り気味であり、電気、ガス、水道が1年以上停止されています。

入居者には固定電話はなく、携帯電話は解約状態です。

さらに、職場は入居申込時から変わっており、教えてもらえない状況です。

室内には多量のゴミがあり、通水されていないため水回りから異臭がする状態なのですが、このような場合に、賃貸借契約を解除して、訴訟手続で明渡しを実現することは可能なのでしょうか?


今回の事案のような場合には、賃借人との契約を解除して、訴訟にて明渡請求をすることはできるものと考えられます。

なお、今回の事案における賃貸借契約の解除理由として、「3ヶ月分以上の賃料の不払い」又は賃貸借契約書に賃貸人に申し出なく1ヶ月以上物件を不在にしてはならない旨の条項がある場合には、「賃貸人に申し出なく1ヶ月以上にわたり物件を不在にしたこと」などが考えられます。

さらに詳しく

1.賃料の不払いについて

賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係に基づく継続的契約であると考えられているため、賃貸借契約を解除するためには、形式的に解除事由に該当するだけでは足りず、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたことが必要と考えられています。

そして、賃料の不払いについては、裁判例上、賃料が3ヶ月分以上不払いとなっている場合に、信頼関係が破壊されていると判断され、解除が認められる傾向にあります。

今回の事案では、1年ほど前から、家賃が滞り気味であるとのことであるため、仮に、実際に未払となっている家賃が3ヶ月分以上である場合には、信頼関係が破壊されていることを理由に、家賃の不払いを理由として契約を解除し、賃貸物件の訴訟手続で明渡しを実現することができるであろうと考えられます。

2.長期間の不在について

建物を長期間使用しない場合、建物が劣化して汚損、損耗してしまいます。賃貸人としては、自ら管理できる状態にあれば、室内の掃除等をすることができますが、賃借人に引き渡した後は、たとえ所有者であっても賃借人に無断で貸室へ立ち入ることができません。また、長期間の不在は、防犯上も好ましくありません。

そのため、長期間賃借人と連絡を取れないこと自体が、信頼関係を損なう要因といえるため、長期間の不在も解除事由になると考えられており、賃貸借契約書においても解除事由や事前通知事項として定められていることが多くなっています。

裁判例上も、「賃借人の無断不在が一か月以上に及ぶ場合は契約は当然解除される」旨の条項について、「契約が当然解除されるとの部分は、賃貸借契約の解除の一般原則どおり、信頼関係理論により限定解釈をし、一か月以上の無断不在の事実があり、かつ、これによって賃貸人と賃借人の信頼関係が失われている場合には賃貸借契約を解除することができるとの趣旨と解すべきである…が、そのような限定はあるものの、右契約の条項自体は有効であるものというべきである。…賃借人相互の防犯、防災その他の快適な生活維持の観点からも、この条項に合理性を認めることができるのである。」と判断したものがあります。

今回の事案では、電気、ガス、水道が停止されて1年以上、固定電話はなく、携帯電話は解約状態、職場は入居申込時から変わっている状況であり、物件に住んでいる形跡はない状態です。

そうすると、例えば、賃貸借契約書において、「賃貸人に申し出なく1ヶ月以上にわたり物件を不在にしたこと」等といった解除事由を定めた条項がある場合には、1年以上の不在、音信不通は、当該条項に違反し、解除事由を充足するものということができます。さらに、1年以上という長期の不在に加えて、室内に大量のゴミがあり、換気も通水もしていないため室内が汚損、損耗することも考慮すると、特段の事情がない限り、信頼関係が破壊されており、賃貸借契約を解除して明渡しを認める判決を得られると考えられます。

3.解除の意思表示について

なお、解除の意思表示は、相手方に到達しなければ、解除の効果が発生しないと考えられています(民法97条1項)。

今回の事案では、賃借人が賃貸物件に住んでいる様子がなく、かつ、賃貸人の把握している賃借人の連絡先が不通であり、賃借人の居場所を把握できない状態です。

そうすると、賃貸人が解除する旨記載した通知書を送ることが困難であり、解除の意思表示を到達させることができなくなりそうです。

このような場合には、「公示送達」という裁判上の手続を利用することで、解除の意思表示を相手方に到達させたものとして扱うことができます。

このような手段があることやいかなる手続を選択すべきかなどについては、専門的知識を伴う判断が必要ですので、賃借人と連絡が取れず、賃借人の居場所も把握できない場合には、弁護士にご相談ください。

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