ニューズレター


2019.Nov vol.60

民法改正と賃借人の保証人


不動産業界:2019.Nov.vol.60掲載

確か前に民法の改正案が可決されたという話を聞いたことがあるのだけれど、来年くらいに遂に改正法が施行されるのだってね。
私はアパートを貸して生計を立てているのだけれども、民法改正で何か影響を受けることはあるのかなあ。
何か変わるとしても、部屋を貸すときは必ず保証人を付けてもらっているから不安はないと思うのだけど…。


令和2年4月1日に民法改正法が施行されますが、改正法施行後以降に賃借人に保証人を立てる場合、極度額を定めなければ保証契約が無効となるおそれがあります。

さらに詳しく

改正前民法456条の2第1項においては、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)のうち、保証対象となる債務に貸金債務又は手形の割引を受けることで負担する債務については、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度としてその履行をする責任を負うものとされ、同条第2項において、極度額の設定がなければ無効となる旨が定められていました。

改正民法456条の2第1項は、改正前に定められていた貸金債務等という限定を外し、単に保証人が法人でない個人根保証契約について全て極度額を限度に責任を負う旨が定められ、第2項において個人根保証契約に極度額の定めがない場合は無効とする旨に改正されました。

賃借人の保証人は、賃貸借契約に基づき賃借人が負う一定の範囲に属する不特定の債務を保証することになりますから、賃貸人と保証人間の保証契約は根保証契約となります。そのため、改正民法456条の2第1項及び第2項の適用を受けることとなりますから、民法改正が施行される令和元年4月1日以降は、保証契約書において「極度額」の定めをしておかない限り、保証契約は無効となることになります。

従って、今後は保証人に対しては保証の限度である極度額を定める必要が出てくることになりますが、こちらもあまり高額な極度額を定めれば、公序良俗に違反するものとして無効となる可能性も出てくるところです。この点、国土交通省より「極度額に関する参考資料」(平成30年3月30日国土交通省住宅局住宅総合整備課)が公開されています。例えば平成9年11月から平成28年10月まで、裁判所が連帯保証人に未払家賃相当額の負担を命じた裁判例の平均値は13.2か月分、中央値は12か月分、最小は2か月分、最大は33か月分であることが示されています。

もっとも、改正民法456条の2は「個人」根保証契約を対象としているため、法人が根保証契約を締結して保証人となる場合には適用がありません。そうしますと、家賃保証会社を保証人として立てる場合には、従前と運用が変わらないことになります。

なお、改正民法の適用は施行前に締結された契約には遡及しませんので、令和2年3月31日までに締結した保証契約であれば、保証人が個人であっても極度額の定めがなくとも契約として有効となります。しかしながら、令和2年3月31日以前に保証契約を締結した場合であっても、令和2年4月1日以降に保証契約が合意更新されれば改正民法が適用されるというのが法務省の見解です。法務省の見解が裁判所に採用された場合、例えば賃貸借契約を合意更新し、その際に保証人にも署名押印してもらったような場合には、賃貸借契約と共に保証契約も合意更新したとみなされますので、極度額の定めが当該合意更新の契約書になかった場合には、保証契約は効力を発しないことになり得ますので、ご注意下さい。

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