ニューズレター


2018.Nov vol.48

賃借人同士のトラブルが…


不動産業界:2018.Nov.vol.48掲載

私が賃貸しているアパートなのですが、最近入居者のAさんが上階のピアノ音や子供の足音がうるさいというのです。そこで私に何とか対応をしてくれというので、実際にその上階のBさんに直接注意をしたのですが、Bさんはどうもあまりピンと来ていない様子で…。
その後もAさんからまた苦情が来たのですが、一度苦情も入れたし、もう後は放っておいてよいでしょうか?


仮に騒音が実際に出ており、騒音の程度も受忍できる範囲を超えている状況であれば、何らかの対応をしない場合には賃貸人の目的物を使用収益させる義務の不履行として、Aさんに対し損害賠償義務を負う可能性があります。受忍限度を超える騒音が出続けている場合には、Bさんに対し再度注意をし、それでもなおやまない場合であれば、賃貸借契約の解除及び貸室の明渡し請求も検討されるべきでしょう。

もっとも、騒音が出ていない又は受忍限度の範囲内である場合にはBさんの債務不履行の問題は生じないため、実際に騒音があったかどうかを確かめる必要があると考えられます。

さらに詳しく

賃貸人は賃借人に対し目的物を使用収益させる義務を負う(民法601条)ところ、本件のような共同住宅の場合であれば、賃貸人は各賃借人に対しそれぞれ平穏に居住させる義務を負います(東京地判平成28年2月23日)。

そのため、賃借人の発する騒音により別の賃借人の貸室の使用収益が害されており、それを賃貸人が放置しているのであれば、賃貸人は賃借人に対して債務不履行に基づき損害賠償責任を負う(民法415条)可能性があります。

もっとも、生活音などの騒音は生活をしている以上避けられないものですから、社会通念上受忍限度を超えるものでない限りは違法なものにはならないと考えられています(前掲平成28年判決等)。そのため、本件では騒音が社会通念上受忍限度の範囲内かどうかが問題となります。

仮にBさんの出す騒音が社会通念上受忍限度を超えている場合には、騒音を出している賃借人に対し文書等で騒音を出さないように申し入れを行う等の対処が必要です。注意後もなおも賃借人の騒音がやまない場合は、信頼関係が破壊されたとして賃貸借契約を解除し、貸室の明渡しを求めることも必要であると考えられます。

賃借人は賃貸人に対し、近隣の迷惑となる行為をしてはならない義務を負っており、かかる義務違反により契約当事者間の信頼関係が破壊されている場合には、契約の解除が認められるものと考えられています(直接の騒音ではないものの、近隣への迷惑行為を理由に解除を認めた事例として、前掲平成28年判決)。信頼関係の破壊は個別具体的な事情で判断されるため判断が難しいのですが、賃貸人の複数回の注意があったにもかかわらず、なおも応じない場合には、信頼関係破壊が認められる可能性があると考えられます。

なお、賃貸人が継続的に注意をしたものの騒音がやまない事例において、賃貸人の使用収益させる義務の債務不履行を認め、賃借人への損害賠償を命じた判決があることも踏まえれば(東京地判平成26年9月2日)、周囲への騒音がやまない場合の賃貸借契約の解除はやむを得ないことと考えられます。

ただし、騒音が出ていないか受忍限度の範囲内である場合は、Aさんに対する債務不履行の問題は生じませんし、クレームに応じてBさんに注意を続ける行為も、Bさんに対する債務不履行や不法行為になりかねません。その場合には文書等でAさんに対しこれ以上の対応はできない旨を文書等で明確に伝える必要があると考えられます。

いずれにせよ、近隣住民からの聞き取り等により、騒音が実際に出ているのかを確認することが先決であると考えられます。

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