ニューズレター


2025.Mar vol.124

防犯カメラとプライバシー侵害について


不動産業界:2025.Mar vol.124掲載

私は、居住用物件を賃貸しているオーナーです。最近、いわゆる闇バイトによる強盗事件等が多発していることを受けて、防犯目的で物件に監視カメラを設置することにしました。ところが、居住者の1人から「監視カメラの設置はプライバシー侵害にあたり、認められない。設置を強行するのであれば損害賠償を請求する。」等と主張されています。

防犯カメラの設置場所としては、エントランスや駐車場等の共用部分を考えており、居住者個々人のプライベートな生活スペースを撮影範囲には含めないことを想定していますが、このような場合でもプライバシー侵害にあたるのでしょうか。


オーナー様の想定なさっている防犯カメラの設置場所や撮影範囲であれば、防犯カメラの設置によって、居住者が主張するようなプライバシー侵害が生じていると判断される可能性は低く、損害賠償請求が認められる可能性は低いものと考えられます。

その上で、防犯カメラの設置方法や撮影方法に加え、撮影した映像の管理方法等については十分に配慮する必要があるかと存じます。

さらに詳しく

防犯カメラは、今や街中にとどまらず、マンション等の居住用物件に設置されることも珍しくありません。また、昨今では闇バイトによる強盗事件等も発生していることから、防犯カメラの設置等による防犯対策の重要性が一層高まっています。

他方で、防犯カメラの設置によってプライバシーの侵害が生じる余地もあり、運用には一定の留意が必要です。場合によっては、住人からプライバシー侵害に基づく損害賠償請求がなされるケースもあります。

例えば、マンションの住民が、マンションの共有部分に防犯カメラを設置したところ、他の住民がプライバシー侵害を主張して、損害賠償を求めた事案においては、原告1人あたり10万円の損害賠償請求が認められました(東京地判平成27年11月5日)。

上記裁判例は、「容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,撮影の場所,撮影の範囲,撮影の態様,撮影の目的,撮影の必要性,撮影された画像の管理方法等諸般の事情を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決す」るものとしています。

上記事案では、防犯カメラの設置場所が居住者の玄関先を撮影し続けるような設置場所であったこと等、居住者の日常生活を常に把握するかのような状況が存在していたという事情がありました。こうした事情も踏まえ、防犯カメラによる撮影に伴うプライバシー侵害の程度は、社会生活上の受忍限度を超えたものであると判断されました。

上記裁判例に鑑みますと、「撮影の目的」が防犯目的であったとしても、直ちにプライバシー侵害にはあたらないと評価されるものではなく、撮影場所や撮影範囲、その方法等にも十分に配慮しなかった場合には、プライバシー侵害があったと評価されるリスクがあるといえるでしょう。

本件では、オーナー様のご相談内容を前提にすると、防犯カメラの撮影範囲は居住者のプライベートな生活スペースを含むものではないとのことですので、居住者のプライバシーを侵害するものと判断される可能性は高くないと考えられます。もっとも、上記のとおり、プライバシー侵害の有無の判断にあたっては、撮影範囲以外にも様々な要素が考慮されます。

例えば、特定人物の追尾機能を持たせないことや、カメラが設置されていることが客観的にわかるようにカメラを設置することといった撮影方法・設置場所等の要素に加え、撮影した映像の閲覧は限られた者のみに限定する、保存期間を短く設定する等といった運用面にも配慮を行い、プライバシー侵害にあたると判断されるリスクを低減する措置をとることが望ましいでしょう。

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