ニューズレター


2025.Feb vol.123

転貸可能のマンションで民泊使用をすることの可否


不動産業界:2025.Feb vol.123掲載

私は、とある賃借人に対し、使用目的を「住居」とし、「転貸可能」という特約付きでマンションを賃貸しています。ところが、その賃借人が居室を勝手に民泊として使用していたことが判明しました。すでに、ゴミ出しの方法等を巡ってトラブルが生じており、マンションの他の住民からクレームが上がってきています。

そこで、賃借人に対して「民泊として建物を使用することは用法遵守義務違反である」と注意したのですが、賃借人からは「民泊といっても居室を居住用に使用するものであり、転貸可能との特約もある以上、民泊を運営しても用法遵守義務違反とはならないはずだ」と言われてしまいました。このまま改善しないようであれば契約を解除したいのですが、できるのでしょうか。


一般的な住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合では、使用の態様が異なるため、居住用のマンションを転貸可能の特約付きで賃貸した場合でも、直ちに民泊使用を認めることにつながるものではないというのが裁判例の考え方です。

ゴミ出しの方法等を巡ってトラブルが生じており、マンションの他の住民からクレームが上がってきている状況であれば、当事者間の信頼関係を破壊する行為であるとして、賃貸借の解除が認められる可能性が高いものと考えられます。

さらに詳しく

1.賃貸借契約の解除と用法遵守義務違反

賃借人は、賃貸借契約により定められた用法に従って目的物を使用しなければならないという義務があります(用法遵守義務、民法616条、594条1項)。

そのため、例えば、居室の使用目的を「住居」と定めたにもかかわらず「店舗」として使用したり、ペット禁止物件でペットを飼育したりする場合には、賃借人に用法遵守義務違反があるものと判断される可能性があります。

賃貸借契約を解除するには、単に義務違反があるだけでは足りず、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと認められるほどの義務違反が必要とされておりますが、このような用法遵守義務違反の程度が重大な場合には、信頼関係が破壊されたものとして、契約の解除をすることができます。

2.用法遵守義務違反と民泊利用の関係性

今回のケースは、用法遵守義務違反の理由が民泊利用というものであり、今後問題となりやすいことが想定されます。

民泊も人の居住に供しているものであるため、賃借人の言うように、マンションの「住居」としての使用目的に違反していないという反論がされることが想定されます。また、仮に「住居」としての使用目的に反しており、用法遵守義務違反が認められるとしても、同じ居住用に使用しているのだから、信頼関係を破壊するほどの義務違反はなく、契約の解除は認められないはずだという反論も考えられます。

3.民泊利用の裁判例

本件に類似する事案について、転貸可能な住居目的の賃貸借と、民泊としての利用は使用の態様が異なるものであると判示した裁判例があります(東京地判平成31年4月25日 判例タイムズ1476号249頁)。

同裁判例は、「特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは、使用者の意識等の面からみても、自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難い」とし、「住居」として使用することが基本的に想定されていたという本件賃貸借契約の解釈からすると「転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない」と判示しました。すなわち、住居使用と宿泊使用との使用態様の差異から用法遵守義務違反を認めているということになります。

また、「他の住民からは苦情の声が上がっており、ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていた」ことから、「民泊としての利用は、本件賃貸借契約との関係では、その使用目的に反し、賃貸人…との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ない」と結論付けています。

したがって、本件のケースでも、ゴミ出しの方法等を巡るトラブルが生じているとのことですので、このトラブルの程度によっては、当事者間の信頼関係を破壊する行為であるとして、賃貸借の解除が認められる可能性があるものと考えられます。

民泊は、不特定多数の者が入れ替わり使用するため、周辺住民との間でトラブルになりやすいという特徴がありますが、実際に賃貸借契約の解除ができるかどうかはケースバイケースの判断となります。

賃貸借契約の解除に関するトラブルが生じた際には、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

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