ニューズレター


2020.Aug vol.69

どこからが非弁行為?


不動産業界:2020.Aug.vol.69掲載

当社は、アパートの所有者兼賃貸人であるオーナーからの委任を受けて、当該アパートの管理を行っています。先日、当該アパートの賃借人が賃料を滞納したため、当社にて督促行為を行いました。管理会社としては、この程度の業務は管理行為の一つとして含まれるものと考えていますが、これが違法となることはあるのでしょうか。


本件で問題となっている賃料の督促業務は、その程度によっては、非弁行為として違法となる可能性があります。賃借人が支払わない旨を明らかにしている、もしくは返答をしない状態が継続しているにもかかわらず、督促業務を続けた場合には非弁行為に該当する可能性が高まるものと考えられます。弁護士法では、非弁行為に該当した場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる旨が規定されています(弁護士法第77条第3号)。

さらに詳しく

非弁行為については、弁護士法72条において、①弁護士又は弁護士法人でない者は、②報酬を得る目的で、③訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申し立て、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを④業とすることができないと規定されています。①ないし④の4点を全て満たした場合には非弁行為として禁止されます。

以下では、4要件のうち、②及び③の要件について焦点を当てて検討します。

まず、②報酬について、賃料の督促業務の直接の対価である場合はもちろんのこと、オーナーが貴社に対し、賃料の督促業務を含んだ管理を受けられることを前提として管理費を支払うというような関係が認められるような場合には、報酬を得る目的があると言えます。

次に、③について、訴訟行為等を当の本人ではない者が弁護士資格なくして行ってはならないことは明白であると言えますが、問題となるのは「その他一般の法律事件」の解釈です。

従前から、当該文言については、事件性必要説と事件性不要説が対立してきました。すなわち、非弁行為として禁止される状況としては、争いが顕在化又は具体化していることが必要であるとする事件性必要説、紛争の顕在化は不要であるとする事件性不要説の対立です。ご相談内容にあてはめて考えてみると、賃料の未払いが単に賃借人の失念によるものであり、貴社が未払いの事実を伝えるにとどまるならば、事件性必要説に立つと非弁行為とはならないものと考えられますが、事件性不要説に立つのであれば、未払いの事実の伝え方によっては非弁行為に該当すると判断される可能性があります。一方で、賃料の未払いにつき賃借人が督促されても支払わない意思を明確にしていたり、そのような意思を明確にせずとも事実上支払う姿勢を見せない状態が一定期間続いた場合に督促業務を続けることは、事件性必要説と事件性不要説のどちらの説に立っても非弁行為となるおそれがあります。

この点、最高裁の判例(平成24年7月20日決定)では、立退き交渉に関する事例ではありますが、「このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである」と判示されています。重要な点は、「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である」という箇所です。当該箇所から、最高裁は事件性必要性に近い立場ではないかと考えられています。

以上より、非弁行為の解釈については、一義的に明確であるとはいえませんが、非弁行為に該当した場合には、上述した2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので、業務内容につき今一度、適正であるかを確認されることをおすすめします。

アーカイブ

ALG&Associates
Lawyers

弁護士法人ALGの所属弁護士紹介になります。

所属弁護士一覧