ニューズレター


2022.May vol.90

借地上の建物の名義人が古いまま。
今の所有者が分からないけど、どうしたらいいの?


不動産業界:2022.May vol.90掲載

私が所有する土地の上に、古い空き家が建っています。

その土地は、亡くなった私の祖父が知人に貸していたらしく、空き家の登記簿上の所有者はその知人のようなのですが、聞くところによると、その所有者もずいぶん昔に亡くなっているようです。

少なくとも私が父から土地を相続してから地代の支払いも受けていないので、空き家を取り壊して、土地を明け渡してほしいと思っています。

登記簿上の所有者は亡くなっていますし、誰も住んでいないので、勝手に取り壊してしまっていいものでしょうか。


空き家の登記簿上の所有者が死んでしまっている場合、その所有権は、通常、当該所有者の相続人が相続しています。そのため、空き家に誰も住んでいなくとも、勝手に建物を取り壊してしまうと、取り壊した者は、当該相続人との関係で損害賠償責任を負う可能性があるほか、建造物損壊罪等の刑事的責任を負ってしまう可能性があります。

したがって、空き家を取り壊すには、相続人を調査し、建物の現在の所有者を特定して、土地の明渡しを請求する必要があります。

しかしながら、相続人を調査しても、死亡した所有者に身寄りがなく相続人が存在していなかったり、戸籍上は所有者の相続人が確認できるものの、当該相続人に連絡が全くとれない場合があります。

その場合には、現行制度においては、相続財産管理人や不在者財産管理人の選任を申し立て、選任された財産管理人に対して、土地の明渡しを求める交渉若しくは裁判提起を検討することとなります。

さらに詳しく

【相続人の調査について】

まず、空き家の所有者の相続人の調査をするには、当該所有者の戸籍の内容を確認し、その親族関係や死亡しているかどうか等の情報をまとめる必要があります。

なお、相続関係の調査においては、複数の相続が重なれば重なるほど、その調査範囲が拡大してしまうため、一般的に多くの労力がかかってしまいます。そのため、所有者が不明となってしまった建物等を放置した期間が長くなれば長くなるほど、相続人の調査をすることが大変になってしまうため、空き家への対応は可能な限り早いタイミングで開始した方がよいでしょう。

調査の結果、相続人が判明し、連絡を取ることができた場合には、古くなってしまった空き家を敢えて欲しがる理由も考えにくいため、土地の明渡しを求める交渉は比較的進めやすいものと考えられます。

【財産管理人制度の活用について】

相続人調査の結果、相続人が存在しない場合若しくは相続人が存在するか明らかでない場合には「相続財産管理人」の選任の申し立てを、相続人は存在しているがその所在が明らかでない場合には「不在者財産管理人」の選任の申し立てを検討することとなります。

なお、これらの財産管理人の申し立てにおいては、相続人を調査した結果を資料と共に報告するほか、相応の予納金(財産管理人の報酬を含む)を支払う必要があります。

また、空き家の財産管理人は、原則として、その建物の保存に必要な範囲の行為しか行えないため、空き家の取り壊し等を選任後すぐに実施できるわけではない(「権限外行為許可」の申請が必要となります。)ため、空き家の取り壊しに向けては相応の期間がかかることに注意が必要です。

【民法改正について】

令和5年4月1日施行の民法改正により、所有者不明土地等について、所有者不明土地管理人等の選任が申し立てできるようになります。

現行制度は、相続人や不在者といった「人」に着目して財産を管理する制度であることから、財産調査や財産管理の労力、手続きにかかる費用や時間が多くかかるものでした。

そこで、新制度は、所有者不明土地等の「財産」に着目して、その財産についての管理人を選任するものであることから、現行制度に比べて、手続きにかかる費用や時間が少なくなることが期待されています。

ただし、新制度がどのように運用されるかについては、実際に制度が始まってみないと分からない部分もあるため、過度な期待は禁物でしょう。

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