ニューズレター


2025.Apr vol.125

ペット可物件における原状回復義務の負担者


不動産業界:2025.Apr vol.125掲載

私は、自己の所有するマンションをペット可の条件で賃貸していたのですが、今回退去した方の部屋を見ると、猫の爪とぎによる毀損や糞尿による床の腐食、汚損及び悪臭が多くみられる状態でした。そのため、入居者の方に原状回復費用の請求をしているのですが、対応してくれません。どのように対応すればよいのでしょうか。


賃料がペット可であることを前提に高額に設定されている等の事情がない限り、賃借人は、ペットの飼育に伴う損傷等を賃貸物件に生じさせないよう注意すべき義務を負っていると考えられます。そのため、賃借人がこの義務に反して賃貸物件に損傷を生じさせた場合には、かかる損傷に関する原状回復義務は、賃借人が負うべきものと判断される可能性があります。

さらに詳しく

1.原状回復義務

民法は、賃貸借契約における原状回復義務について、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と規定しています(民法621条)。

この条文によれば、賃貸借契約終了時に賃貸物件に損傷がある場合には、①通常の使用収益によって生じた損耗、②経年劣化による損耗は賃貸人が負担し、③その他の賃借人の帰責事由による損傷は、賃借人が負担すべきということになります。

この趣旨は、「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」と考えられる点にあります(最判平成17年12月16日)。

2.ペット可物件におけるペット起因の損傷に関する原状回復義務の負担について

ペット可物件については、居室内でペットを飼育することが想定されているため、ペットを飼育することによる損傷というのは当然に想定されているようにも考えられます。他方で、ペットの飼育を特別に許容しているのみであって、賃借人の原状回復義務が緩和されるものではないとも考えられます。この点についてはどのように考えるべきでしょうか。

本件と類似の事案として東京地判平成25年11月8日があります。この事案では、特約により猫の飼育が許容されていたところ、賃借人の退去時には、フローリングの一部は、飼い猫の糞尿等を長時間放置したことによる腐食のほか、剥離等の毀損が見られ、腐食部分は床下の床根まで浸透している状況でした。そのため、賃借人は、賃貸人に対して、原状回復費用の請求等を行ったという事案になります。

この事案において、裁判例は、「本件賃貸借契約で定められた賃料が、猫を飼うことを許容したことで通常より高額に設定されていたと認めるに足りない」と認定され、被告は、原告から「本件居室に損傷等を生じさせることのないよう善管注意義務を負っていて、その義務の程度が緩和されるべき事情は認められず、猫の糞尿等の掃除を怠ることはこの義務に違反するものである」と判示し、猫の糞尿の放置等に起因するフローリングの修繕費用については、賃借人の負担と判断しました。(なお、最終的な負担額については、経年劣化部分を考慮して工事費用の30%とされています。)

3.裁判例の評価について

上記裁判例では、通常損耗を賃借人ではなく賃貸人の負担とすべき理由は、「経年変化や通常損耗についての修繕費等の回収は賃料の中に含ませて行っているのが通常」であることは前提としつつも、本件の賃料額の設定が、ペットを飼育することを考慮した高額な賃料が設定されているものでないことを重視し、ペットに起因する損傷の原状回復費用を賃借人の負担としているものと考えられます。そのため、ペット可物件であることを理由に高額な賃料が設定されているような場合には、結論が変わる可能性があるでしょう。

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